「心臓」小川国夫
冒頭に「房雄の母親が実家の法事に姉を連れて行った日」とあるから、主人公房雄は独り自由な環境に置かれていることが分かる。そこに登場する則子とのやり取りや体の描写から、はち切れそうな欲望を押さえようとする房雄の心情が伝わってくる。そしてその欲望は次に登場する綾子に向けられていく。若者たちの胸の高まりが聴こえてきそうな作品である。
「蟹」龍胆寺 雄
1929年(昭和4年)発表の作品。主人公象一は15歳とあるから、当時の小学校高等科2年か3年ではないかと推察する。象一は両親を亡くし叔父夫婦と暮らしている。象一は海と埋め立て地とを区切った石垣に小さな動物園を作った。やがてその動物園に興味を示す女の子が現れる。象一より一つ年上で造船会社の重役の祖父と暮らしている筑紫である。くすんだ工場町の空の下に生まれた淡い恋心がノスタルジックに伝わってくる。
「乙女の告白」プルースト 鈴木道彦 訳
拳銃自殺を図ったうら若き女性の告白の物語。何故彼女が自殺を図ったのかは最後まで読まなければ分からない。
彼女は母との甘味な思い出を振り返り、未熟だった過去の過ちを悔いていたが、二十歳のとき結婚が決まり、司祭にすべての過ちを告白し魂を恢復させた。ところが、彼女はフィアンセがいない晩に重大ないまわしい行為をしてしまうのだった。そしてそのとき、彼女はバルコニーで倒れる母の姿を見た。彼女には母が自分の方を見ているように見えたのだが……。
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