「冬の夢」フィッツジェラルド
この作品を読み終えて、表題の「冬の夢」とは何なのかしばらく考えさせられた。この言葉、第一章の「このときも彼は無意識のうちに冬の夢の言いなりになってしまったのだった。」と最終章の「あの国では、かれの冬の夢がいまを盛りと咲きほこっていたのだ。」で登場する。その夢は彼が14歳の時に11歳の女の子に出会ったときに始まっていた。女の子は奔放な娘となり彼は娘と恋に落ちる。そして二人が出会ってから17年後、人づてに彼女がほかの男性と結婚し容色を失っていったと聞く。「冬の夢」とは過ぎ去った過去の陰影なのか……？
「新月」木々高太郎
作者は「推理小説」という名称の生みの親だそうである。
物語は、31歳年上の男性に嫁いだ女性の事故死について書いたものである。問題はこの事故が夫の故意によるものだったかという点にある。事件は事故死と決着した後に夫は亡くなるが、彼は「新月」という標題の小説めいた文章を残していた。人間の心理について掘り下げた作品である。
「白孔雀のいるホテル」小沼 丹
大学生だった「僕」が宿屋の管理人を勤めたときの話。経営者は将来湖畔に白いホテルを建てたいという構想をもってこの宿屋を始めたが、客はなかなか入らない。やがて外交官を目指す学生、駆け落ちした男女二人、そして農業と称する男性が宿を求めてやってきた。彼らが引き起こす様々な騒動の中にあっても、経営者は白いホテルの構想を具体化していく。いつかきっと夢をかなえる、という希望が物語を明るくしている。
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